サイトは、作り直す前に
「残す価値」を考える。
AI検索時代のサイトリノベーションという選択
企業サイトのリニューアルを検討するとき、最初に何を考えるでしょうか。
デザインが古くなった。スマートフォンで見づらい。アクセス数が伸びない。問い合わせが少ない。最近では、AI検索への対応が不十分だという理由も加わってきました。
こうした問題を解決するために、サイトの構成を見直し、デザインを新しくし、コンテンツを書き換える。それが一般的なリニューアルの進め方です。
しかし、既存のサイトには、本当に作り直さなければならないほどの問題があるのでしょうか。
私は最近、企業サイトの改修について少し違う考え方をするようになりました。
何を残すか。
企業サイトには、数字に表れない価値がある
企業サイトの評価では、アクセス数、検索順位、直帰率、コンバージョン率などが使われます。いずれも有用な指標ですが、それだけでサイトの価値を判断できるとは限りません。
例えば、専門性の高いBtoB企業を考えてみます。その企業が求めているのは、毎月何百件もの問い合わせではなく、自社の考え方を理解し、長期的な取引につながる少数の顧客かもしれません。
業界について十分な知識を持ち、一般的な営業文句では動かない人たちです。そうした相手に向けたサイトでは、わかりやすいサービス説明を並べることよりも、企業が何を問題だと考え、どのような判断基準で仕事をしているかを伝えることが重要になる場合があります。
業界の常識に疑問を投げかける言葉。すぐには答えを示さない構成。見る人に考えさせるビジュアルや演出。これらは一般的なユーザビリティ評価では、必ずしも高く評価されないかもしれません。しかし、狙った相手にとっては、他社との違いを感じ取るきっかけになり得ます。
不特定多数のネット集客を狙わない企業にとっても、ウェブサイトは重要です。違うのは、サイトの役割と評価基準なのです。
リニューアルが、差別化を失わせることもある
サイトを新しくする際、制作側はさまざまな改善を提案します。サービスをもっと具体的に説明する。問い合わせボタンを目立たせる。ユーザーが迷わない構成にする。業界で一般的な用語に統一する。
それぞれに合理的な理由があります。ただ、その改善案が、企業のマーケティング戦略を十分に理解したうえで提案されているかどうかは、別の問題です。
そもそも、そのサイトは誰に見てもらうためのものなのか。その相手は何を知っていて、何を知らないのか。何に不満を感じ、どんな言葉に反応するのか。
そこまで考えずに一般的な改善を積み重ねれば、どの企業にも当てはまる、整ったサイトに近づいていきます。見やすくなった。使いやすくなった。説明も増えた。しかし、以前より印象に残らなくなった。
そんなリニューアルも起こり得るのではないでしょうか。
改善とは、一般的な正解に近づけることではなく、その企業が実現したい目的に近づけることだと考えています。
サイトリノベーションは、壊すところを選ぶ仕事
建物のリノベーションでは、既存の構造や空間の魅力を生かしながら、設備や機能を更新することがあります。古いからといって、すべてを取り壊すわけではありません。
むしろ、何を残すことに価値があるのかを見極めることが、計画の出発点になります。ウェブサイトにも、同じ発想を取り入れられると思います。
長年使われてきたサイトには、不要になったページや古いコードが残っている一方で、その企業ならではの考え方や、時間をかけて磨かれてきた表現が存在することがあります。
すべてを同じ基準で新しくする必要はありません。私は、サイトリノベーションを三つの仕事に分けて考えています。
守る
思想・表現・演出・独自性
取り除く
不要ページ・重複・古い情報
整える
HTML・情報構造・LLMO
KEEP|残す価値を見極める
キャッチコピー、ストーリー、ビジュアル、ページの展開、インタラクティブな演出、独自の言葉遣い。一見すると説明不足に見える表現にも、明確な意図があるかもしれません。
残す対象は見た目だけではありません。その表現を生み出した思想や、顧客に何を感じ取ってもらいたいかという設計意図も含まれます。
REMOVE|役割を終えたものを取り除く
役割を終えたページ、重複するコンテンツ、古いサービス情報、使われていない機能、不要なプラグインやコードを整理します。
ただし、アクセス数が少ないという理由だけでページを削除するわけではありません。限られた顧客の判断に必要な情報であれば、閲覧数が少なくても残す価値があります。
REBUILD|情報と技術の基盤を更新する
HTMLの意味構造、内部リンク、URL、メタ情報、構造化データ、サイトマップ、検索エンジンへの公開設定などを整えます。
複数のWordPressや異なるテーマで構成されたサイトなら、サイト間の情報関係も整理します。表示速度、スマートフォン対応、アクセシビリティ、セキュリティも確認します。これらはサイトの世界観を変えずに取り組めることが多い領域です。
残すもの、取り除くもの、作り直すもの。その区別をつけることが、サイトリノベーションの中心になると考えています。
AI検索への対応も、企業の目的から考える
ChatGPTなどのAI検索では、従来の検索エンジンとは異なり、ユーザーが複雑な事情や条件を含めた質問をすることがあります。
企業側としては、自社の専門性や実績をAIに正しく理解してもらい、必要な場面で情報源として参照されることに意味があります。そのために、構造化データを整備したり、ページの関係を明確にしたりすることは有効な取り組みです。
ただし、技術的な設定を整えたからといって、AI検索で必ず引用されるわけではありません。そして、その前に考えたいことがあります。
不特定多数の集客を目的とする企業と、限られた専門的な顧客を対象とする企業では、狙うべき問いも異なります。
一般的なビッグワードで何度も表示されることより、具体的で専門的な課題を抱えた人が投げかける、深く、尖った問いに対して紹介されること。後者のほうが価値を持つ企業もあるはずです。
ロングテールキーワードから、顧客の「問い」へ
従来のSEOでも、ロングテールキーワードという考え方がありました。検索数は少なくても、具体的なニーズを反映した複数語の検索です。AI検索では、その考え方をさらに広げられる可能性があります。
例えば、単に「オフィスビル 管理会社」と検索するのではなく、建物の状況、管理上の問題、将来の方針、予算などを含めて、AIに相談する人がいるかもしれません。
その人が知りたいのは、管理会社の一覧ではなく、自分の置かれた状況に対して、どのような判断が考えられるかということです。
企業サイトも、一般的な業務紹介だけではなく、こうした具体的な問いに答えられる情報を持っていることが重要になるでしょう。ただし、検索されそうな質問を大量に並べればよいという話ではありません。
現場で経験したこと、実際に判断したこと、成功だけでなく失敗から得た知識。そうした一次情報こそ、企業の専門性を伝える材料になります。
その問いに対して、自社はどのような価値を提供できるのか。
AI検索への対応も、まずはそこから考えてみるのがよいのではないでしょうか。
AIを使って、サイトの裏側を調べる
サイトリノベーションの実務では、AIを積極的に活用できると考えています。
例えば、既存サイトのURLを一覧化し、ページの役割や重複を調べる。古い情報やリンク切れを探す。HTMLやCSSの問題を確認する。構造化データの整合性を点検する。こうした調査には相応の時間がかかります。
AIを利用すれば、作業の一部を効率化し、人間が確認すべき問題を絞り込むことができます。もちろん、AIの調査結果をそのまま信用するわけにはいきません。
実際に取得できたページと、取得できなかったページを区別する。コードの修正が表示や動作に影響しないか確認する。不要と判断されたページにも、残す理由がないかを検討する。最終的な確認は必要です。
また、AI検索での認識状況についても、企業名を指定した質問と、業界の課題から始まる質問を分けて検証します。
AIが自社をどのような会社として説明しているのか。専門性を正しく理解しているのか。どのページを参照しているのか。その結果を見ながら、必要な情報や技術設定を整えていきます。
ここでのAIは、サイトの価値を決める審査員ではなく、調査と検証を支援する道具です。
デザインを変えないことも、立派なディレクション
ウェブサイトの仕事というと、新しいデザインを提案することが成果だと考えられがちです。しかし、私は、変えないという判断にも同じくらい価値があると思っています。
そのデザインはなぜ採用されたのか。そのコピーは誰に向けたものなのか。その演出によって、相手に何を感じ取ってもらいたいのか。
こうした意図を理解せずに、一般的なデザインの流行やAIの改善提案に合わせて変更することには、慎重でありたいと考えています。
もちろん、既存のデザインが優れているとは限りません。目的に合っていなければ変更する必要がありますし、技術的な問題があれば修正します。
ただし、その判断は「新しいほうがよい」「AIが高く評価した」という理由だけではできません。
企業の目的とターゲットを理解したうえで、何を残し、何を変えるかを決める。そこに、クリエイティブディレクションの役割があるのではないでしょうか。
CUDIORAが考えるサイトリノベーション
CUDIORAでは、企業が何を伝えるべきかを考えることを、ウェブサイト制作の出発点に置いています。
その考え方を表すのが、LISTEN、IMAGINE、SHIFTです。
聴く
事業と顧客の声を聴き、既存サイトのどこに価値があるのかを理解します。
想像する
ターゲットの判断や心理を想像し、表現が果たす役割を考えます。
変える
残すものを守り、役割を終えたものを取り除き、情報と技術を更新します。
この三つを通じて、企業サイトの価値を見直していきたいと考えています。
新しくすることが、進化とは限らない
AI検索の普及によって、企業サイトに求められる技術や情報構造は変わっていくでしょう。しかし、企業が誰に何を伝えたいのかという問題は、AIが登場する前から存在していました。
技術が進歩したからといって、企業の思想や、顧客との関係まで新しくする必要があるとは限りません。
むしろ、技術が変わる時代だからこそ、変えてはいけないものを見極めることが大切になるのかもしれません。
AIには、情報の整理や技術的な検証を手伝ってもらう。一方で、企業の価値をどう表現し、どの相手に届けるのかは、人間が考える。
サイトリノベーションとは、古いサイトを新しく見せることではなく、企業が持つ価値を守りながら、伝えるための仕組みを進化させること。
私は、そのように考えています。
